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劇団四季ミュージカル『アラジン』日本語訳詞担当、高橋知伽江さんへ合同インタビューを実施

劇団四季ミュージカル『アラジン』の日本語訳詞を担当された高橋知伽江さんへ合同インタビューを実施致しました。

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高橋知伽江さんは、数多くの舞台作品やテレビ/ラジオドラマの台本、ディズニー映像作品を手掛けられ、「魔法にかけられて」(2008年)、「プリンセスと魔法のキス」(2010年)、「塔の上のラプンツェル」(2011年)、「メリダとおそろしの森」(2012年)、そして昨年NO1ヒット作となった「アナと雪の女王」でも日本語訳詞を担当されました。

制作に関するエピソードや、日本語歌詞に込めた想いなどを語られました。

日本語に訳す時に、大切にしたポイントは何処でしょうか?

全体的に言えば、一度、耳で聞いただけで分かる、優しい言葉だけ使うというのを心がけてまして、日本語は同音義語が多いので、「あっ、今、何て言ったのかな?」とか、「あっ、それは…」と思った瞬間にドラマから心が離れてしまいますので、絶対に誤解の無い分かり易い言葉だけを使うようにいつも心がけています。歌ですと、どうしてもキーのフレーズがありますよね。「A Whole new World」のような。そういう所は、作詞家も力を入れていますし、作曲家もそこに良いメロディを入れようとしているので、日本語でも何か想いがちゃんと伝わる言葉を入れたいという気持ちが常にあります。こういう場合、英語と日本語の構造上の違いで悩んだりしますね。

「A Whole new World」で「自由」という言葉を使う一節を劇場プログラムで拝見しましたが、「自由」という歌詞に決まるまでには、他の言葉を本当は考えていて時間がかかった物なのか、それともすんなり決まったものなのでしょうか?

時間は少しかかりましたけども、他の言葉は自分の気持ちにしっくりとは来なかったので、先ほどの話の続きのようになりますが、「A Whole new World」というのは、「A」「Whole」「new」「World」という4つの単語で「全てが新しい世界」「何もかもが新しい世界」という意味になりますけれど、音符は4つしかないんですね。そこで日本語で綺麗なメロディーを生かそうと思うと、4つの音しか入らないんですね。ですから、「何もかもが新しい世界」という意味を、そのままストレートにそこの4つの音では言えない訳ですね。では、どうしたら良いかなと。

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ジャスミンの気持ちになって考えた時に、彼女が、今、生まれて初めての体験しているんだと考えて、ずっとお城の中に閉じ込められて自由になりたいと思い、父親や身分に縛られていた彼女が、初めて解き放たれて、光溢れる世界を星空の上から見て、「何て綺麗なんだろう!これが自由なんだ!今、私は自由なんだ!」と感じている彼女のほとばしるような喜びとか、感動を4つの音で言うとしたら、ダイレクトに「自由よ!今私は自由なのよ!」という喜びを「あの」音に乗せて伝えたかったんです。

それこそが、「A Whole new World」という言葉とは違うけれども、ジャスミンが感じて歌っている時の気持ちという意味では同じだと思ったので、言葉というか、心を訳したという気持ちでいます。

アラジンの訳の依頼があってから完成させるまでにどの位かかりましたか?
また、どういう手順を踏みましたか?

昨年の秋にオーディション用に翻訳をし、オーディションが終了してから本格的に翻訳に取り掛かったんですけども、私、他の仕事もしており、夜中と明け方の作業だったので、1月下旬まで掛かりました。ですので、10月の終わりからほぼ3ヶ月、毎日作業しました。今度は、実際に俳優さんが歌った時の感じを聞かなくてはいけないので、丸一日、時間をとって、俳優さんの選抜メンバーに集まってもらい、詞を全部声に出して歌ってもらう「訳詞検討会」というのを1月末に行ったと記憶しています。

そこで、やっぱり歌いづらいとか、ちょっと無理があるな、という所を直してから稽古に入ってもらうのですが、今度はブロードウェイから演出のスタッフが来て、チェックがあったり、歌いながらと踊る場面のあるので振付とのタイミングの合わせとかを行います。歌詞(台本)では、「Friend Like Me」はどのようなマジックがある、とは書かれてなくて、「こんな風だよ」って歌詞で歌っているのですが、どんな風かは分からないんですね。ですので、これは振付を見てから、「成る程、こういう事なんだ。じゃあ、こういう風にしましょう!」みたいな直しも有えうので何回も直しました。最終的に半年位、つい、この間まで直したという気がします。

先程、英語の情報量と日本語の情報量が違うと話されたが、単に訳詞の場合はメロディの問題であるとか、
日本語と英語のイントネーションの違い等の苦労はありますでしょうか?

それは常に悩みですし、メロディに載せるという事は、基本的に既にアクセントとイントネーションが全部決まっているという事なので、どんなに入れたい言葉でも入らないというのは、何処に限らず「全て」であることです。例えば、「どんなに」って入れようと思っても、「ど」と「ん」を入れる言葉であれば、「ん」の方が下でなければ成らない。↓「ど」↑「ん」→「なに」って言ったらやっぱりおかしいですよね。

英語の場合のアクセントは強弱なのですが、日本語は高低なので、そこで言葉の違いに常に縛られます。
一番大きいのは、その情報量の問題でしょうか。

訳詞をしていく上で、改めて感じたアラジンの音楽の魅力はありますでしょうか?

アラン・メンケンさんの曲は本当に耳ざわりが良くて、とても、スッ、と心に馴染む曲なんですけども、それだけに特にバラード系のモノは言葉をたくさん入れることが本当に難しいですね。劇団四季は、「一音一字」というメソッドがあって、基本的にはそれに則っているのですが、言いたい所を一音一字だけだと難しいな、と思う時は何度もありました。

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「自慢の息子」という映画ではカットになった曲が有りますけども、アラジンの舞台では何度も出てきて、それが毎回、アラジンが決心をする場面で使われてるんですね。彼の心模様をきちんとお客様に伝えないと、アラジンの成長ストーリーというのが伝わらないので、それをどういう風に、どんなに限られた音の中でも伝えなければ成らないことは何なのかというのを、よく考えて歌詞に入れなくては成らなく、中々難しかったです。でも、すごく良い歌で日本人の心の琴線に触れると思います。

今回、台詞を日本の文化に合わせて変えられていたりする所が多い様に思いますが、
歌詞に日本の文化を反映する必要があるなと思った所はありますでしょうか?

ジーニーが歌う「Friend Like me」という歌が有りますよね。自分ほどの友達はいない。自分が一番素晴らしい友達だよね。という歌ですけどもその「Friend」という言葉を一般的に、「友達」というふうに訳した場合、今回のアラジンとジーニーとの関係は表現しきれないと思ったんですね。というのは、アラジンには三人の仲の良い幼馴染の友達がいて、彼らが、自分達は死ぬまで仲間だ。兄弟だ。親友だ。と歌っているので、じゃあジーニーは友達か、といったら、友達じゃないな、と。それで、どういう言葉を使えば、一番、アラジンとジーニーの関係が表現出来るかと考えました。もちろん、歌なので音の縛りもある中で、悩んだ末に「相棒」という言葉を使いました。「理想の相棒」という。多分、英語だと「Friend」でも何の抵抗も無いのかもしれないけれど、いわゆる、辞書的な意味で「友達」と訳すと、これは違うな、と思いまして。

なんというか、言葉の辞書的な訳し方では伝わらないという意味では、文化の違いというのは言葉の違いでもありますね、きっと。

今回のアラジンの企画は三名の作詞家が関わっていますが、三名の歌詞を訳される際に、
三名の違いについて感じられた事はありますでしょうか?

正直申しまして、どの歌が誰の作詞なのか、まったく意識しておりませんでした。
もしかしたら評論家の様な方が分析したら、差が有るのかもしれませんが、基本的にミュージカルの歌詞は台詞と同じですので、そのドラマの流れの中で、アラジンやジャスミン、その他の人達が感じている心模様が言葉になっているので、作詞家の個性と言うよりは、歌う人物の個性とか、その時々に伝えたい事が描かれています。それらを訳詞で表現しているので、ミュージカルではなくて、単独の曲であれば、作詞家の個性は強く出るのだと思うのですが、今回はその事を強く意識しては訳しませんでした。

実際のリハーサルや稽古はご覧になられましたか?

稽古場で粗通しを見たのが最後でした。

今回、一番訳すのに苦労した歌とスムーズに訳せた歌はどれでしょうか?

簡単に出来る曲と言うのは無いですね(笑)。
今回のアラジンの曲の特徴として、1曲が長いんですね。普通のミュージカルだったら、これだけ長いショーアップされた曲は、ひとつの作品に1曲位しかないような曲が、ドン!ドン!ドン!!と続くんですね。「そろそろ歌わないで、ダンスセクションに入るかな?」と楽譜を捲っていっても、「まだ歌ってる…」みたいな(笑)。

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たとえば、「Prince Ali」はパレードでプリンス・アリが来たよ!という、一つのことだけを言うのに、どれ程凄い人かという事を延々、6分間も歌ってるんですよ。どんどんどんどん、それに合わせてキャストも変わりますし、こんなに凄い!あんなに凄い!と、アピールしているんですけども、凄く速いテンポでアピールしているのに、常に日本語も合わせていかなくてはいけなくて、猿の絵が出てくる所では、絶対に猿の事は入れなくちゃいけないとか、95頭の駱駝って言ってる歌詞では95と言う数字は入れなくちゃいけないとか、そういう、色々な約束事の中を踊りながら歌って無理が無いように訳していくというのは、過多に職人芸のような難しい所がありました。

例えば「Proud of Your Boy」は、アラジンの生い立ちから背景等を本当は説明しなければいけませんが、
短い中で凄く難しいように思いましたか?

彼に親が居ないということは、ちゃんと出して欲しいと演出家の指示がありました。最初の「Arabian Nights」の中から出てきてますけども、「Proud of Your Boy」では彼のヤンチャぶりを心配しながら亡くなったお母さんの事を、いつも心の中に思ってるという歌です。プリンスになったり、ジャスミンをお嫁さんにもらったりするのも、望みだけれど、一番は母さんの自慢の息子でいたい、なりたい、という、彼の凄くピュアなものを歌で伝えようとしてまして、それが日本人の心情にも合うと思いました。彼がなぜああいう行動を取っていくかという根本的な理由になるとも思いました。演出家からの注文も結構ありましたし、何度も直した所もあります。

アラジンの台本はかなり読み込んだと思います、
高橋さんは一連のディズニー作品を訳された中で改めて、アラジンの作品としての魅力とはなんでしょうか?

やはり、徹底したエンターテイメント精神だと思います。お客様を楽しませる事についても、一切の妥協が無い。それはもう、ディズニーの精神だと思うし、劇団四季の精神にも繋がってると思うんですけども、「このへんでいいや」と言うところが無い、「そこまでやるんだ」という位のエンターテイメントですね。

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私がこの作品で美しいな、と思ってるのが、「自由賛歌」です。自由を称える、どんな魔力・財産を持つよりも、自由が素晴らしいと言ってますが、自由を追い求めて、自由を掴み取る。それ自体、勿論、美しい話ですけども、自分は自由をつかんだけども、周りの人や相手の自由も尊重する訳ですよね。自分だけが良ければいいんじゃなくて、周りも自由であって幸せである事が最終的な幸せに繋がるという、凄く美しいお話だと思います。

映画から舞台版へ作品として変化した部分はありますでしょうか?

どうなんでしょうか(笑)。
それは、私の立場では良く分からないんですけども、基本的に訳詞をやる時に、実はあんまり映画を見なかったんですね。見ると真似してしまうといけないので。同じ歌詞を使わないといけないのですか?と最初に伺った時に、それは意識しなくて良いですとの事だったので、舞台は舞台の魅力として、舞台のアラジンとして、登場人物の心の流れをそのまま追って、訳詞を考えました。ですので、映画との違いなどは考えなかったですね。

補足の質問になりますが、訳詞を直すために、演出家から指導を受けたそうですが、それはどなたでしょうか?

演出補のスコット・テイラーさんです。
また、実際に歌詞を書かれた、チャド・ベグリンさんからも打ち合わせがあって、色々、アドバイスを受けたり、チャドさんが作詞なさった歌とかについて、「この訳詞は僕も好きだ」と言っていただけたりして、嬉しかったです。

映画でも、ディズニー作品を手掛けてらっしゃいますが、ディズニーの方々とお仕事をされる上で
触発される魅力的な部分とか、作品作りの特徴的な所はありますでしょうか?

今回、何度も訳詞を直したとお話ししましたが、映画の方でも、物凄く直しの回数って多いんですね。凄く細かい所までチェックが入るのと、現代的な要素を大事になされているのかもしれないです。現代の人がそれをどういう風に感じるかと言うことを、ディズニーの方は常に考えている様な気がします。例えば、「Let It Go」とかですね(笑)。エルサの歌ですが、それを見る現代の特に若い人達がどのように感じるのか。「これは自分の事だ」と感じる様な訳詞にして欲しいと言う注文がありましたので、物語の中の登場人物の歌と言うのではなく、今の人達が共感できるような、ある意味自分の代わりに歌ってくれているといった現代性というか、お客様の心理を凄く重視した訳詞を求められますし、そういう視点でお作りになっているんだろうと思います。

高橋さんによる訳詞のお話、お楽しみいただけましたでしょうか?
日本語訳詞の制作秘話と共に、作品を楽しむのもいいかもしれません。

愛と友情のスペクタクルミュージカル『アラジン』、どうぞお見逃しなく!

【ミュージカル『アラジン』東京公演 延長概要】

公式ページはこちら

<期間>
2015年5月24日(日) ~ロングラン公演

2016531()公演分まで発売中

<会場>
大同生命ミュージカルシアター 電通四季劇場[海](東京都港区東新橋1-8-2)

<料金>
S席/11,000円 A席/8,000円 B席/6,000円 C席/3,000円

ファミリーゾーン
S席子ども/5,500円 A席子ども/4,000円
※3歳~小学校6年生

「四季の会」会員料金 
S席のみ10,000

<チケット購入方法>
ネット予約はこちら
電話予約:劇団四季予約センター 0120-489444(午前10時~午後6時) 他

<お問合せ>
劇団四季 東京オフィス 03-5776-6730

取材協力:劇団四季

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