東京2020パラリンピック「こん棒投げ」で世界新記録を達成した「こん棒」を都立工芸高校へ贈呈
東京2020組織委員会(以下、組織委)は2021年9月29日(水)、東京都文京区の東京都立工芸高校の
生徒が製作した陸上競技用備品「こん棒」が、東京2020パラリンピック競技大会(以下、東京2020パラ大会)の
「こん棒投」競技にて使用され、世界新記録を達成した事を記念し、世界新記録達成の際に使用された
「こん棒」を小谷実可子組織委スポーツディレクター(以下、小谷SD)が都立工芸高校へ贈呈する様子を公開しました。
【贈呈の様子】
2021年8月24日(火)~9月5日(日)の13日間に渡り、世界中から163の競技団体(難民選手団を含む)、
4,403名のアスリートが参加し、306セッションという連日に及ぶ熱戦が繰り広げられた
東京2020パラ大会。大会期間中には6競技153種目において世界新記録が誕生しました。
その中の一つがパラリンピック独自の種目であるパラ陸上競技の「こん棒投」。
車いすクラスの中でも障がいが重度であり、弱握力等、手にも障がいのある選手を対象としていて、
ボウリングのピンに似た、⻑さ約40cm、重量397gのこん棒を投げて飛距離を競う競技で、
選手は固定された投てき台上にベルトで身体と車いす(あるいは投てき台)を固定して片手でこん棒を投てき。
投げ方に制限はなく、着地エリアの方向を向いて投げても、後ろ向きや下手に投げることも認められています。
2021年8月27日(金)に東京都新宿区のオリンピックスタジアム(国立競技場)にて行われた
陸上競技女子こん棒投(F32クラス)決勝で、ポーランドのルザ・コザコフスカ選手が
6回の試技中、3回目に記録した28.74mが世界新記録となりました。
この世界新記録達成の投てきに使用されていたのが都立工芸高校定時制課程インテリア科の
生徒15名が製作したこん棒。そのこん棒の製作現場となった定時制課程インテリア科の工作室にて当時、
実際のこん棒製作に携わった工芸高校の卒業生の西澤直斗さん、関谷朱花さん、
春田菫さんの3名が登壇し、組織委からはソウル1988大会でアーティスティックスイミング
(旧シンクロナイズドスイミング)でソロ/デュエットにおいて銅メダルを獲得した
オリンピアンの小谷実可子スポーツディレクターが登壇してこん棒の贈呈式が行われました。
小谷SDから卒業生を代表し西澤さんへ、コザコフスカ選手の直筆のサインが入れられたこん棒が贈呈されます。
贈呈後、登壇者よりコメントがなされます。
小谷SD「皆様の心の籠った作品がアスリートの人生最高の瞬間を作り上げた物だと感謝を申し上げます。
学生の皆様は今大会の参画に非常に限られた中で、このような形で着実に皆様の若い力が大会を支えて頂いたのは
素晴らしい事だと思っています。皆様にとっても、この大会を支えたんだ、アスリートの素晴らしい瞬間に繋がったんだ、
というのを誇りに思って、是非これからの人生も頑張って下さい。」
西澤さん「東京2020パラ大会で選手が実際に使用されるこん棒を製作させて頂いた事においては
一都民、また一工芸高校の生徒といたしまして、この上ない誇りはございません。
また今回経験させて頂いた大変貴重な事を、今後も何かしらの形で活かして、
自分の誇りとして今後も色々な活動をしていきたいと思っています。」
関谷さん「パラリンピックに携わった経験が凄く良い経験になりました。このこん棒自体も
使ってもらえるかどうかは、選手次第だったので、こうして使ってもらえて
記録を出して貰えたという事が凄くうれしいです。」
春田さん「一年前に自分がこうやって持っていたこん棒が帰って来たという実感が湧かないんですけど、
この選手のサインを見て、凄い・・・本当に世界に行ったんだなという実感が湧きました。光栄です。」
池上信幸都立工芸高校校⻑「私共の工芸高校は工業高校ですので、学ぶ生徒は職業に結びつく専門的な知識、
技術を日々学んでいます。しかし、学ぶ課程で社会との繋がりや、人々にどの様に関わっていくのか、
という事に中々意識をしたり、感じたりするのが難しい状況にありますが、今回、この様な場を頂いて、
改めて自分達がやっている事について誇りを持ちながら取り組んでいけるのではないのかなと感じております。
本日、贈呈頂いたこん棒につきましては、東京都のレガシーとして本校で継承していきたいと考えています。」
そして贈呈式後に行われた西澤さんと関谷さんの囲み取材において、報道陣から様々な質問が投げかけられました。
Q:こん棒投競技はTVで見られたのか?世界新記録を達成したこん棒を実際に手にした感想は?
西澤さん「見させて頂きました。「このこん棒は東京都立工芸高校の生徒が作った」と、
ハッキリアナウンスをして頂きまして、その言葉で私は感無量でした。
我々の授業の一環として作ったこん棒がパラリンピックという檜舞台に持ち出され、
世界記録が出たという事は、製作者として本当に嬉しいの一言です。
関谷さん「今までは動画とかではなく、言伝でしか聞いていなかったのを
実際に競技で(こん棒が)使われているのを見て、嬉しいなという気持ちで見ていました。
パラリンピックに対して携わるというのは、特に考えもしておらず、
オリンピックがメインというか、(こん棒製作に)携わってからパラリンピックを意識して
見れる様になったという所がありますね。」
Q:パラリンピックに参加したこの経験を将来はどの様に活かしたいか?
西澤さん「作った事に関してもそうなんですけど、我々がこうして作った物がパラリンピックで
使用して頂き出された世界記録というは私の中で第一の誇りですし、
世界記録を出したこん棒投に携われたというのは、物凄く大きな糧になると思います。」
関谷さん「今までこういう規模の大きな企画に携わるという事が無かったので、
パラリンピックの競技の当事者の方の対話とかで、こん棒を製作して、
将来仕事に就いてから使う人や相手とのコミュニケーションで良い物が作っていけるのかな、
というのを感じました。」
Q:製作時に工夫をした点は?
西澤さん「我々がこん棒を作るにあたって第一に考えた事は、選手の事を思って作ろうと。
どのようなヘッドの形状が投げ易いかとか、どの様な物が好みに合うかというのを先ず第一に考えて、
選手の事を念頭において製作をしました。」
関谷さん「こん棒を作るにあたって重さだったり、サイズとかの規定もあったりして、
選手がどういう形だったら使いやすいかとか、その全部を含めて良い物を完成させるという点で
皆、悩んでいました。アンケートで選手の皆さんから意見を聞いて取り入れていました。」
【東京2020パラリンピック競技大会陸上競技用備品(こん棒)】
組織委が東京都教育委員会と連携し、オリンピック・パラリンピック教育推進の一環として、
パラスポーツへのさらなる理解促進を目的に、陸上競技こん棒投の競技用備品「こん棒」の製作を
都立工芸高校定時制課程の生徒に依頼。こん棒投の競技人口の少なさから
国内に製作を行うメーカーが無く、こん棒の調達先が極めて限定されていることから、
組織委はこの機会をオリンピック・パラリンピック教育推進に活用する事に。
そこで白羽の矢が立ったのが都立工芸高校。過去に肢体不自由特別支援学校で使用する
パラリンピック競技でもあるボッチャの補助具(ランプ)を製作した実績のある、
工芸・デザイン系の製作技術を学ぶ高校である同校の定時制課程インテリア科の
第4学年(令和元年当時)の生徒15人が課題研究授業の一環として、パラスポーツやこん棒投、
バリアフリーについて学び、意見を出し合いながら約8ヶ月をかけてこん棒を製作。
2019年6月4日に東京都教育委員会と協定を締結し、2019年7月にこん棒製作を開始。
2019年中にWPA(国際パラ陸上競技連盟)の技術委員により試作品の確認を実施し、
その後改良を加えた完成品20本(製作されたのは22本)が、2020年3月に組織委に納品されました。
北海道産のブナ材を材料とし、精密機器並みの精度で旋盤を用いて角材からの削り出し製作が進行。
こん棒下部にレーザー刻印された学校名も、刻印時に発生する僅かな凹凸も投てき時の空気抵抗になり
飛距離に影響が出る所から、入念なコーティングにより平滑性を確保。
レギュレーションに沿っていれば、持ち手の部分の形状は製作者が自由に工夫できるという
こん棒の特徴を生かし、手の大きさ、障がい、投げ方などの違いに配慮し、引っ掛かりや
抜けやすさの異なる球状・円柱形などの4種類の持ち手のこん棒を製作。
東京2020パラ大会での役目を終えた20本のこん棒の今後としては、
世界新記録を達成したコザコフスカ選手サイン入りの1本は工芸高校に贈呈され、
持ち手が異なる4本は大会アーカイブとして継承(博物館等での展示を検討)がなされ、
残る15本は他に調達した投てき用具と共にパラ陸連に譲渡され、今後日本で開催される
国際大会で活用となっています。
<参考>
【世界パラ陸上競技連盟(WPA)陸上競技規則及び規定 2018-2019(2018年1月発効)】
◆構造:こん棒は先端部(ヘッド)、首部(ネック)、胴体部(ボディ)、底部(エンド)の4つの部分からなるものとする。
先端部、首部、胴体部は木製で、全体として固定され、一体化した頑丈なものでなければならない。
胴体部は、金属製で刻み目や突起や鋭い縁のない円筒状の底部に固定されていなければならない。
◆先端部、首部、胴体部の表面は、くぼみ、でこぼこ、溝、畝、穴、ざらつきがなく、滑らかなものでなければならない。
◆先端部は球状または円筒状で、首部に向けてすぐに細くなる形状でなければならない。胴体部は一番太い部分の直径が
60mm以下でなければならず、形状は円筒状でもよい。こん棒は、首部に向けて均等に細くなり、
金属製底部に向けて少しだけ細くなるものとする。
※以上、日本パラ陸上競技連盟ウェブサイトから抜粋
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